デザイナー
1990年 7月9日生まれ、和歌山県出身
2013年 大阪芸術大学デザイン学科を卒業後、広告制作会社に就職。東京支社勤務に。
2017年 充電期間を経て、フリーランスのデザイナーとして活動開始。
ネット漬けの子供時代にデザインと出会う
ーークボリさんがデザインに興味を持ったのは、いつ頃だったんでしょう?
小学生の頃ですね。当時の私は学校へ行ったり行かなかったりで、家にいる間はずっとインターネットに張り付いてました。そこでまずWebデザインにハマって、自分でもサイトを作りはじめたんです。
ーー2000年代前半だから、ブログが出てきた頃ですよね。
そうそう、SNSもなかったので、Webで情報発信をするためには自分でホームページを作る時代で。私は「素材サイト」を作ってました。
ーー懐かしい! 「個人ホームページ」の時代ですね。アクセスカウンターやキリ番、BBSがあって……。
そうそう(笑)、最初はWindowsのペイントソフトを使ってドット絵を描いてたんですが、中学生くらいでペンタブを買って。その後もネットで勉強しながら、サイト制作に熱中してました。
そこからインダストリアルデザインや服飾デザインにも興味を持ったんですけど、なんとなく自分がやりたいのはグラフィックデザインの方なのかな、と思いはじめて。
ーーそれはなぜでしょう?
いくらかっこいいデザインでも、単体で世に出ることって少ないですよね。パッケージやカタログ、Webサイトと組みあわさって初めて人の目に触れることがほとんど。
だから、その見せ方やビジュアル作りの部分でデザインというものに関われたらいいな、と思ったんです。
ーーそれが何歳くらいの頃でしたか?
高校生で、進路を考えはじめた時期です。ただ、芸大へ行くまでにも色々ありました。私、4人兄弟の末っ子だったので、芸大へ行かせてもらえるお金は家にないだろうなと思ってたんです。
ーー親への遠慮というか。
はい。でも、高校の美術の授業で模写をしていたら、先生が「お前めっちゃ絵うまいな! 絶対に芸大へ行った方がいい!」って言ってくれたんです。
それをきっかけに、蓋をしてた「デザインを勉強したい!」って気持ちを表に出せたんです。
ーーその先生の言葉がなかったら……。
デザイナーをやってないかもしれません。先生の後押しもあって、そこでやっと親に美大へ行きたいって話をしました。
すると親のほうも「初めて自己主張してきたね、じゃあいいんじゃない」と。末っ子だからか、元々の性格なのか、自分の主張をはっきり言うことがなかったんですよね。そんな風にして、大阪芸大に通うことになりました。
「グラフィック=対話」に気づいた
ーー大学へ行ってみて、どうでしたか?
すごく楽しかったです。美術や音楽のようなカルチャーが好きだったんですが、地元が田舎だったので、そういう話をできる人が周りにいなくて。
でも、大学にはカルチャーに詳しい人も、かっこいい制作物を作ってる人もたくさんいました。その環境がすごく新鮮だったんです。
ーー大学は大阪だから、カルチャーに触れられる機会もうんと増えそうですね。
そうですね。あとは大学に行って、コミュニケーション能力が一番成長しました。
ーーそれまでは苦手だったんですか?
小さい頃は内気な子だったので、一人でなんでも完結しちゃう癖があったんですよね。最大の理由は、家に引きこもっていたからなんですけど(笑)。
人に自分の思いがうまく伝えられないわだかまりは、ずっと心の中にありました。
でも、大学で「グラフィックって対話だ」と気がついたんです。グラフィックは「コミュニケーションデザイン」とも呼ばれるんですが、独りよがりではなく、人対人の情報を受けて伝えるものなんですね。
ーー作品を作るのとは違って、例えば発注者がいて、その人の意図を汲んで、適切にデザインに落としこむような?
はい。やっぱり言葉や形にしなきゃ伝わらないんだ! と大学の授業や課題を通じて学んだことで、コミュニケーションの大切さを思い知って。
だから今でもデザインの「意味」みたいなところをすごく大事にしています。デザイナーはクライアントさんの言いたいことを聞いて、形にして伝える仕事だと思うので。
ーークライアントさんの言いたいことが、デザインの「意味」ってことですよね。
そうですね、表層だけのデザインで終わるんじゃなく。
ーー元々「伝えること」が苦手だったからこそ、そうしたデザインの役割にも意識的になれたのかなと思いました。
ずっと考え続けて、やっと大事なことに気がついたって感じですね。
器用貧乏になった会社員時代を経てフリーに
ーー大学卒業後は広告制作会社の東京支社に配属されたんですね。
デザイン業界の忙しさは事前に聞いてはいたんですが、予想以上にハードでしたね。広告のデザインをしてたんですが、その時期に器用貧乏になっちゃいまして。
ーー器用貧乏?
会社では商品パッケージに車のパンフレット、新聞広告、Webデザインやコーディング、服飾のパターンと、とにかく色々やったんです。
ーーすごいですね、幅広い!
幅広かったぶん、自分のデザインには特化した分野がないって意識があるんですよね。でも、自分にとっての一番はWebデザインかなと思ってます。
元々趣味でやってたのもありますし、Webデザインは日々進化しているので、追いかけるのがすごく楽しくて。
ーー会社には3年いて、そのあとすぐ独立を?
いえ、1年くらい時間を空けました。充電期間といいいますか。ゆっくりしたり、会えてなかった人に会ったりしてましたね。
ーー話を聞くに、会社員時代は相当忙しそうですもんね……。そこからフリーランスになるきっかけってあったんでしょうか。
大学時代の友人との仕事です。私が会社を辞めたのと同じくらいの時期に、実家の和歌山のみかん農家を継いだ樫原正都くんって友人がいるんです。
彼から実家のみかんのブランディングを頼まれたのが、フリーランスとしての最初の仕事ですね。
▲クボリさんがデザインを手がけた「幸美農園」(代表:樫原正都)のデザイン。Webサイト:https://www.yukimifarm.com/
パッケージやブランドロゴなどを担当したんですが、そこでお客さんと直接向き合って話をできたのが本当に嬉しかったんです。
会社員時代は、デザイナーとクライアントの間に営業の人が入ることが多くて。お客さんとのやりとりがゼロではないんですが、コミュニケーションから遠ざかっていた感覚はありました。
でも、樫原くんとはみかんのブランド名から一緒に考えたり、みかん農園の周りの自然をデザインに落とし込んだり。楽しかったですね。
そこから色んな仕事を受けるようになったんですけど、フリーランスになって、人とコミュニケーションをとろうって気持ちがまた生まれました。
ーー会社員として仕事に追われてると、目の前のものを片付けるのが最優先になっちゃいますよね。
そうですね、忘れかけていた大事なことを、ここでまた思い出して。仕事だけじゃなく、友達と遊んだり、人が集まる場所に行ったりも積極的にするようになって、プライベートにも変化がありました。
▲一次産業を中心とした和歌山の「もの」を盛り上げるために企画・デザインを行う団体「CHARLL’S」のロゴ。クボリさんは立ち上げからブランディングを担当。友人の樫原さんが代表となり運営している。名前の由来は、和歌山の方言で「〜をやる」という意味の「〜ちゃーる」に「〜のもの」を意味する「`s」
▲「みかんいちえ」ビジュアルデザイン。日本中のゲストハウスに和歌山みかんをお届けし、みかんを囲んで語り合ったりお互いのことを知り合う、そんな出会いに寄り添う果物として、みかんのイメージアップ企画を創出。
企画:CHARLL’S
地元のデザインを盛り上げたい
ーー今後、クボリさんがチャレンジしたいことってありますか?
将来的には地元のデザインを盛り上げたいと思ってます。地元は田舎なので、いいデザインやカルチャーに触れる機会が少ないんですよね。
それに、地元には魅力的な特産品が多いのに、うまく発信できてない。だから、デザインでやれることがたくさんあると思うんです。一朝一夕でやれることじゃないので、長いスパンで取り組みたいです。
あと、子供の頃に興味を持ったインダストリアルデザインや、服飾のデザインに挑戦したいですね。特に、インダストリアルデザインのなかで「椅子」はデザインに興味を持った入り口のひとつで。パントンチェアのヴェルナー・パントンや、エッグチェアのアルネ・ヤコブセンが好きなんです。
ーーそれこそ、地元の木を使って椅子をデザインするなんてのもよさそうですね!
あ、いいですね。おもしろそう。
▲クボリさんがデザインした「オオギ薬局」のロゴ・会員証
ーー最後に、自分の仕事のアピールポイントって、ずばりなんだと思いますか?
ええっと、なんだろう……「全部」?(笑)
ーー全部!(笑) さっきは「器用貧乏」って言ってましたけど、クボリさんみたいにいろんなスキルがあることは、強みにもなるということですね。紙もWebも、コーディングもできますって言ってもらえると、いろんな仕事が頼めるので。
そうですね、今後は動画の仕事をもっとやってみたいです。自分の作ったデザインを動かしてみたい。
やりたいことが多すぎますね。でもその気持ちが積み重なって、今の自分があるんだと思っています。
紆余曲折はありましたけど、また最近「デザイン=対話」という視点に立ち返ることができたので。今後もしっかりお客さんと向き合いながら、いいデザインを作っていけたらと思ってます。
ーー今日はありがとうございました!(ライター:友光だんご)
〈Relation〉
飯田亜沙美:デザイナー。大きなプロジェクトで一緒に動いてる。
赤木謙太:Webデザイナー/ディレクター。ALISのWebデザインを依頼されている。
なかむらしんたろう:Webディレクター。スキーマの仕事を依頼されている。
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